前橋地方裁判所 平成８年（わ）１０８号 判決
裁判所書記官
青木登
本籍
群馬県桐生市広沢町六丁目九〇九番地
住居
同市同町六丁目八四五番地の二九
職業
会社員
被告人
若林準四郎
昭和一一年八月一四日生
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三五〇〇万円に処する。
右罰金を完納する事ができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
（犯罪事実）
被告人は、群馬県桐生市広沢町六丁目八四五番地の二九に居住し、同市同町六丁目九〇九番地において若林金型製作所及びワカバヤシプラスチックの名称でプラスチック金型の製作及びプラスチック成型加工の事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際し、所得金額に関する正しい収支計算をせず、過少な所得金額を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成三年分の実際所得金額が一億〇一四三万一二三四円であったにもかかわらず、同四年三月一三日、同市永楽町一番一五号所在の所轄桐生税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が七七一万円であり、これに対する所得金額が六三万一四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、右の不正行為により同年分の正規の所得税額四五六〇万八〇〇〇円と右申告税額との差額四四九七万六六〇〇円を免れ、
第二 平成四年分の実際所得金額が一億二七一八万二六六八円であったにもかかわらず、同五年三月一二日、前記桐生税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が八七〇万円であり、これに対する所得税額が一一五万四六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、右の不正行為により同年分の正規の所得税額五八九七万〇五〇〇円と右申告税額との差額五七八一万五九〇〇円を免れ、
第三 平成五年分の実際所得金額が七〇一二万五六五三円であったにもかかわらず、同六年三月一一日、前記桐生税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が八二三万七〇〇〇円であり、これに対する所得税額が八一万九六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、右の不正行為により同年分の正規の所得税額三〇〇一万八〇〇〇円と右申告税額との差額二九一九万八四〇〇円を免れ、
た。
（証拠）（括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。）
１ 被告の公判供述、検察官調書二通（乙二、三）
２ 若林恵子の検察官調書（甲三一）
３ 山口三郎、湯澤昱夫の質問てん末書（甲三二、三三）
４ 調査書二八通（甲三ないし三〇）
５ 捜査照会回答書（甲二）
６ 電話聴取書（甲三五）
（適用法令）
罰則 第一ないし第三につき
各所得税法二三八条（いずれも懲役と罰金を併科）
併合罪加重 懲役刑につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条（犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重）
罰金刑につき刑法四五条前段、四八条二項
労役場留置 罰金刑につき刑法一八条
執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項
（量刑事情）
一 本件は、パチンコ機用のプラスチック金型の製作等の事業を営んでいた被告人が、平成三年ないし五年分の所得税合計一億三一九九万〇九〇〇〇円の逋脱をした事案である。
二 その動機は、子供たちに自己の事業を引き継がせ、自己らの老後のために資金を蓄えたかったという、誠に身勝手なものであり、そのために、被告人は、極めて少ない総所得金額を記載した所得税確定申告書を作成して税務署に提出し、九七～八パーセントにものぼる所得税の逋脱をし、その合計額は一億三〇〇〇万円余の高額にのぼる。
かかる犯行に及んだ被告人の刑事責任は誠に重い。
三 なお、被告人がかような確定申告方法を採るようになったのは、納税相談を受けた担当員の指導の仕方にも一因があったこと、当然のこととはいえ、本件が発覚した後、被告人は、本件の修正申告をして、重加算税や延滞税を支払ったこと、被告人は、自己の事業を法人組織にしてその代表取締役に就任していたが、本件の発覚によりその職を辞し、また、その事業活動も現在では不振に陥っている。
被告人には格別前科前歴はない。
四 以上の諸事情を総合考慮すると、被告人には、社会内で更生する機会を与えるのが相当であり、また、罰金額については、実務上逋脱額の約三割とすることが多く、被告人の本件当時の事業経営及び本件逋脱状況等からすれば、検察官の求刑も決して不当とはいえないのであるが、現時点での被告人の経済状態に鑑みると、主文程度が相当である。
よって、主文のとおり判決する。
（検察官圓山慶二、私選弁護人阿部昌博（主任）、同綱取孝治各出席）
（求刑－懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円）
（裁判官 奥林潔）